映画|帰ってきたヒトラー

 

帰ってきたヒトラー』予告編(ショートバージョン)|ギャガ公式チャンネル

小説からの映画化、セミドキュメントスタイルでバージョンアップしてる

独裁者、ホロコースト、民衆を先導し悲惨な戦争へと導いた歴史的人物。

誰もが知るヒトラーが現代に帰ってきたら?

という設定で展開される96分の映画。

ドイツ250万部、42言語に翻訳された世界的ベストセラー『帰ってきたヒトラー』。文庫化3ヶ月で日本での累計発行部数(単行本含む)が24万部を突破。ティムール・ヴェルメシュが2012年に発表した風刺小説。2015年に映画化です。

www.work-master.net

小説が映画化されるときって、製作者側の人物イメージ、世界観等が自分のイメージと異なるとき、残念な思いをしたり、時間的制約等で話が変えられたりってことがあるけれど、これはむしろバージョンアップしてる。

映画の利点を生かして、ドイツ国民に実際にインタビューをしかけるというセミドキュメントスタイルをとってる。ヒトラー役の人が、ヒトラー風の語り口で話しかけ、インタビューされる側の考えを引き出し、ヒトラーがいいそうな語りかけをする。

良い悪いじゃなくって、そういう風に感じたり考えている人が実際にいるんだということ、そのように語りかけられることでそのように感じてしまうのかということなどが垣間見える点が非常に興味深い。

【おもしろポイント2】ヒトラー役の人が感じたこと

これは、もう、ストレートに、この記事を読んで欲しいです。

realsound.jp

どのように役作りをしたか、インタビューする中でどのように感じたかなど、メイキング映像並に裏話があって面白い。映画のシーンになっていないようなこともたくさんしたみたい。

この人、役作りがすごいなぁ、と思って観てたけど、やはり相当研究したんだなぁ、という感想。インタビューでは生でやりとりが起こるわけで、あの応答が即時的に生まれるものなのだとしたら、それは相当すごい。

【感想1】世界観を3層にすることでリアル感がより増してる

テレビ会社「My TV」をクビになったザヴァツキが、TV会社に戻るためのトクダネとしてヒトラーを利用するし、ヒトラーヒトラーで自分の主義主張を世間に広げるための手段としてそれをまた利用するという Win-Win な関係で話が進んでいく。

サヴァツキが、テレビや映画の素材になるだろうとドキュメンタリー映像を撮っているシーンが、リアルなドイツ国民の様子を映し出していたりする。

後半、ヒトラーが本を書いてそれが映画化されることが決定する。ある部分は映画の撮影シーンとしての場面だったりもする。一方、サヴァツキがこのヒトラーが1945年からワープしてきた本物のヒトラーなんだと確信して精神錯乱状態になったあたりからは、どこまでが映画の撮影シーンなのかっていうのがわからなくなる。

こうやって実際のリアルインタビューで現実世界を出しておきながら、フィクションのそのまたフィクションみたいにすることで、なんだかリアルインタビューに映画としての命が吹き込まれるような感覚があった。

【感想2】ポスターに描かれたかわいらしい犬

帰ってきたヒトラー』のポスターに写っている犬。これ、ヒトラーが銃殺した犬。ここにヒトラーの本性が存在してて、もう端的にこの映画を表してるなーっていう感想。

ヒトラーはテレビや自分の周りにいる人間との関係において、Win-Winの状態を保ったまま、それをうまく利用してどんどん大衆に受け入れられていくんだけど、それはすべて自覚的かつ意図的ににやられていることなんだよね。

最初、現代にタイムスリップした頃のシーンでは、ヒトラーは、自分の身に何が起こっているか把握できずにいた様子がうかがえる。新聞店で2014年の日付を見て失神して、意識を取り戻してすぐに新聞店の店主に「今は何年だ?」って聞くシーンがあるんだけど、そのときにはすでに「時を超えてやってきたのだ」という自覚をしてるように見える。新聞店で情報を仕入れ、歴史と現代を把握。そこからしばらくヒトラー自身、まだ自分が1945年にいるかのようなそぶりや発言もあるんだけど、自分の中の半信半疑もありながら、でも意図的だったんだなぁ、、、感じる。

そんなふうに自覚的意図的に行動していたヒトラーだけど、犬をレンタルしにいったシーンで、かまっているうちに噛み付いた犬を銃殺しちゃうんだよ。最初は、犬を可愛がろうとかまっていて、人差し指を犬の顔の前に出して反応を楽しんでいるんだけど、そのうち犬が牙を剥いてその指に噛みつくんだよね。そして、それを振り解いた後蹴り上げる。蹴り上げられた犬はヒトラーのコートに噛み付いてしがみつくんだけど、それを振り解いて、内ポケットから銃を出して迷わず引き金を引く。

いや、そういうやつなんだよね、本性は・・・っていう。その本性を隠して、そうして意図的に色々と繰り広げられていくわけでさ。

【感想3】伝えたいメッセージが明確だ

最後のシーンは、誰もが受け取ることのできるメッセージ性のあるシーンだったよなぁ。

「また大衆を扇動する気か」

「サヴァツキ、分かっとらん。1933年当時の大衆が扇動されたわけではない。彼らは計画を明示した者を指導者に選んだ。私を選んだのだ」

「行け、怪物め」

「私が?なら怪物を選んだ者を責めるんだな。選んだ者たちは普通の人間だ。優れた人物を選んで国の命運を託したのさ。どうする?選挙を禁止するか?」

「いや、あんたを止める」

「なぜ人々が私に従うのか考えたことはあるか?彼らの本質は私と同じだ。価値観も同じ。私を撃てるか?」

「私からは逃れられん。私は人々の一部なのだ」

いや、それな、っていう。と、同時に、身震い一瞬するほど、こわっ!!!って思いました。

問題の本質はそこにあるんだよ。大衆ってそうなのな、、、みたいな。

ヒトラーはタイムスリップしてきて国民に政治問題を聞き始めた直後に「数十年経っても民主主義はできあがっていない」みたいなことをいうんだけど、そうなんだよね。

絶対王政から市民革命を経て民主主義の世の中になってから330年程度。フランス革命が1789年からだからね。でも、実は正確にみると、歴史的には、封建制を打倒した資本主義革命なんだよな。途中、共産主義VS資本主義の時代もあったけど、それだって「富」をどう扱うかの問題でさ。権力が集中していた王政に反対するように、法の下の平等・経済的自由・自由な私的所有、人民主権・権力分立・自由権を確立していった。絶対王政の中には、政治形態としての君主制と、経済のあり方としての王権みたいなものがあって、資本を市民の手にするための政治形態として民主主義が取られていった。その恩恵を一般市民も受けるような時代になったけれど、たぶん資本主義の枠の中での民主主義なんだろうし。

民主主義というと「なんでも市民の意見が反映される政治形態」って理解されているように感じるけど、どこか我々一般市民が「選挙に行ったって変わんないしね」って自分の一票を軽んじたり、あるいは「政治はわかんないけど、この人はなんかやってくれそう」みたいなイメージで動いてしまうのは、「数十年経っても民主主義はできあがっていない」ってことなんだろうなとも思う。

その点、ヒトラーの最後のセリフは、いや、ほんとそうなんだよなぁ、、、とまっすぐに入ってきたものでした。

だが、しかし、そのせいで一点だけ謎が残ってしまった。それは、つまり、このセリフを映画のシーンでいってしまうヒトラーは、一体どんな意図で?っていう。え、だって、それ言って映画で広がったら、ネタバレになっちゃわない?みたいな。それとも、それをまたうまく利用して大衆を扇動する方法がヒトラーの中にあったのかな、、、

なーんてことを考えながら、観た映画でした。